旋盤で、ワークを加工する時、爪で掴みます。爪は金属製、鬼爪(インサート)と言って繰り返しの使用時に摩耗しにくい材料がワークに直接当たるように作ってあります。
旋盤をぐるぐると回したときに中心とワークを掴む爪の中心が一致していればよいのですが、そのためには爪を取り付けするたびに削らないといけません。まして鬼爪を装着してる爪は削れません。
ではどうするのかと言いますと、旋盤に常時固定の親爪と、鬼爪が装着されてる子爪との間にシム(薄っぺらい金属片)をはさんで爪の中心をずらして、旋盤の軸芯(中心)に近づけてやります。
今回、どの爪にどれだけのシムをかますべきなのかの計算方法を説明します。
1, 芯出しリングを使用する方法
爪1、爪2、爪3の三本の爪が旋盤についていてこれらの中心にワークを置いて、爪はそれぞれ中心向きの力でワークを支えます。(外径クランプ)
上図のように芯出しリングをクランプさせます。芯出しリングとは、外径の中心と内径の中心が一致している真円状のリングです。厳密に言えば存在しませんが、ほぼそんなイメージです。
芯出しリングの内径にピックインジケータやダイヤルゲージをあてて、主軸(チャック)をぐるりんと手で回します。
その時、旋盤の軸芯と爪の中心が一致していればダイヤルゲージの振れは0のままです。
では上図のように爪の中心が旋盤の軸芯から距離aだけ爪1の方向へずれていたらどうでしょうか?
その場合ダイヤルゲージの最も遠い位置が爪1の方向になり、ズレの距離は
a = (最も近い位置のゲージ読み -最も近い位置のゲージ読み)÷2
となります。例えば最も近い位置のゲージ読みが +0.3mmで遠い方が-0.1mmだと a=0.2mmとなります。ここまではイメージしやすいと思います。
2、 芯出しリングを使わない方法
芯出しリングの使用はある程度正確にでるのですが、使えない場合が結構あります。
1 適切なサイズのリングを持ち合わせていない
2 あるけど、爪の跡やさびでがたがた
3 ロケーション(リングを旋盤方向へ押し当てるための台)が爪より外にある
こういう時の方法の一つにワークの内径を切削させる方法があります。
1 4つ爪使用時の方法
比較的簡単です。下図のようなワークとします。
下図のようにクランプします。
内径を切削した所下図のようになりました。
距離bだけ爪1のほうへワークが寄っているのです。
この状態で(ワークを一度もアンクランプしない)ダイヤルゲージを当てて主軸を手で回すと振れは理論上0ですね。
次にワークをアンクランプし、180度回転させて再度クランプします。黒の点は旋盤の軸芯、緑の点は爪の中心、赤い点はワークの内径の中心です。
上図のようにダイヤルゲージを当てて回すと、最小値(最も遠い所)の方向に爪の中心が寄っていることがわかります。また寄っている距離bは
b = (min - max)÷4
例えばダイヤルゲージの最大値が0.5mmで最小値がー0.1mmだとすると b = (0.5 + 0.1)/4 = 0.15 となり、爪の中心は爪1の方向へ0.15mm寄っていることがわかります。
その場合爪1側に0.15x2 = 0.3mmのシムをかませます。 なぜ2倍の厚みのシムなのかは別の機会があれば説明します。
ここまではイメージしやすいと思います。
2 3つ爪使用時の方法
ここからが今回の本番です。下図のようなワークと爪があります。
じ実際に内径を切削すると下図のようになりました。
爪の中心は距離cだけ爪1の方向へ寄っています。このままダイヤルゲージは0のまま触れません。180度回転させることはできません。
そこで、ワークをアンクランプさせ、時計方向に120度回転させて再度クランプさせますと下図になります。
拡大してみると下図になる。
Oc : 爪の中心(チャックの中心)
Os : 旋盤の軸芯(中心)
On : ワークの内径の中心
Onは、回転させる前はOsと同じ場所でしたが、Ocを中心に120度時計方向に移動しました。
ダイヤルゲージをあて主軸を手でまわすと(Osを中心に回転)、最大値と最小値の差は 2 x (On,Os間の距離)となります。三角形(On,Oc,Os)は120度の角度を持つ2等辺三角形になるので、cを求めると
c = (最大値と最小値の差)÷2÷√3
となります。また最も遠い点は、点Onと点Osを通る線になるので、爪1との方向のズレは ー30度となります。
最後に3つ爪方法をまとめると、
① 材料をクランプさせ内径切削する。
②アンクランプさせ、120度時計方向にかいてんさせ、再度クランプさせる
③ダイヤルゲージで振れの最大値と最小値の差から距離cを求める
c = (最大値と最小値の差)÷2÷√3
④最小値(最も遠い点) から時計方向に30度回転させた方向に、距離cだけ爪の中心はずれている
例えばダイヤルゲージの読みの最大値が 0.1で、最小値が ー0.4だとすると c = (0.1+0.4)/2/√3 = 0.14 がズレの距離となります。
理論通りにはなかなかいきませんが目安としての使用には有効で10年以上使ってます。